珍事件手記
13話 張 込
今回の依頼は「タイ」からである。
「依頼者の娘は3ヶ月でタイに帰国する予定で日本に向かったが、1年経った今でも連絡が無く、タイ国内の出入国管理局にて調べたところ、女性の友人3名とタイの男性1名の5名にて日本へ渡航した事実が判明したが、同行していたタイ人男性は、人身売買をしている噂があり、娘を探して欲しい。」との依頼である。
私は、依頼者に娘さんと友人達及び、同行したタイ人男性の写真と詳細を郵送して貰うようにした。
私は、日本のタイ国領事館へ赴き、5名がビザの延長申請をしていないか聞込みを行なったところ、男性のビザ期限が近日中であることが判明した。
男性が領事館にビザの延長手続きに来るところを捕まえようと、私は朝からスケッチブックを所持して領事館前にて座り込み、写生を装い張込を開始した。
張込2日目の朝、領事館の女性職員が朝食を私に手渡してくれた。
どうやら、私の事を「路行く人の似顔絵描きで生計を立てている人物」と思っている様子である。
張込3日目の朝、その女性職員は出社途上、またしても朝食を手渡してくれた。
張込4日目、マル被の姿はまだ現われない。
女性職員は、私の事を哀れと思い、毎日の如く朝と昼に食事を差し入れしてくれる。
張込8日目、やっとマル被が現われた。
ビザの更新手続きを済ましたマル被を尾行し、マンション一室に入室したのを確認した。
暫くすると、同室から女性8名と共に、マル被が出、迎えに来たワゴン車に乗車した。
女性4名の人相は、依頼者の娘と友人に間違いない。
ワゴン車は、風俗店前に停車し、女性を店内に入れた。
朝方、同風俗店前に、再度ワゴン車が現われ、女性達を乗せてマンションに戻った。
女性達は、常に監視されている様子で、マンションのドアも外から鍵が掛けられている。
私は、警察と出入国管理局に状況を説明し、合同でマンションと風俗店の「ガサ」を行ない、依頼者の娘と友人3名、その他4名の合計8名を保護し、それぞれ母国に無事送還した。
後の調べで、このマンション以外にも数箇所の女性監禁場所と風俗店が判明し、総勢数十名の外国籍女性が保護された。
この事件で私が得たものは、警察と管理局からの感謝状、そして、親切にしてくれた領事館の女性職員の真心。
その女性職員は、その後日本人と結婚し、子宝にも恵まれております。
結婚後も、暫くの間は、自分が結婚した夫の職業は「路行く人の似顔絵描き」と思っていたそうです。
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