珍事件手記
5話 恐 怖

 私が探偵になって暫くは深夜の最終バスで帰宅していたが、その帰宅途上に出くわした心臓が飛び出しそうな思いをした事件を紹介しましょう。
最終バスは、乗客もまばらで、ほろ酔い加減のサラリーマンが利用するくらいである。
このバスは、長い座席が左右に設置されているベンチシートのバスであった。
ある日、そのバスのベンチシートに腰掛けていたところ、男性客が一人で乗り込んできた。
その男性客は、私の向かいに位置する座席に座った。
その男性と私は向かい合わせとなったのである。
暫くすると、その男性は片目を閉じたが、開いた一方の片目は私を見据えているではないか。
探偵の仕事をしていると、逆恨みを受けることもある。
この男性に関して記憶をたどったが心当たりはない。
 私は、相手の男性の見開いている片目を、にらみ返していた。
その時、バスが上下に大きく揺れた。
 その途端、信じられない事が起こったのである。

見開いた男性の片目が「ポロッ」と落ち、私の足元に転がってきた。
「ギャーーー、ヒーーー」
私は声にならない悲鳴を上げ、座席の上に立ち上がっていた。
男性は、私の悲鳴に気付き「すみません」と会釈をし、落ちた眼球をハンカチで包んでポケットにしまった。
その後、私は自宅でビールを数本空けて我に返ったが、どのようにして帰宅したか、その間の記憶はまったくない。

メニューへ戻る
6話に進む
ts@tanteisha.net

探偵養成所カウンター